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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)11795号 判決 1986年8月07日

甲事件原告、乙事件原告(以下「原告」という。)

〓通平吉

右訴訟代理人弁護士

大石徳男

甲事件被告(以下「被告」という。)

ケイ・ワイ通商株式会社

右代表者代表取締役

河野良子

右訴訟代理人弁護士

谷口欣一

福田照幸

甲事件被告(以下「被告」という。)

桑名禮子

右訴訟代理人弁護士

植草宏一

甲事件被告(以下「被告」という。)

朝銀東京信用組合

右代表者代表理事

朱泳植

右訴訟代理人弁護士

江尻平八郎

植草宏一

野口敬二郎

甲事件被告、乙事件被告(以下「被告」という。)

江北商事株式会社

右代表者代表取締役

根本信久

甲事件被告、乙事件被告(以下「被告」という。)

有限会社大倉

右代表者代表取締役

西脇三郎

右訴訟代理人弁護士

二井矢敏朗

主文

一、被告有限会社大倉は、別紙目録(一)記載の建物について、千葉地方法務局流山出張所昭和五五年九月二日受付第一二六一一号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二、別紙目録(二)記載の土地について、被告ケイ・ワイ通商株式会社は同法務局同出張所同月六日受付第一二九一九号の所有権移転登記の、被告桑名禮子は同法務局同出張所同月八日受付第一二九六四号の所有権移転登記の、被告朝銀東京信用組合は同法務局同出張所同日受付第一二九六五号の根抵当権設定登記の、各抹消登記手続をせよ。

三、被告江北商事株式会社は、別紙目録(三)ないし(九)記載の土地について、同法務局同出張所同月二六日受付第一三九五七号の抵当権設定登記、第一三九五八号の所有権移転請求権仮登記及び第一三九五九号の停止条件付賃借権仮登記の、被告有限会社大倉は、別紙目録(六)ないし(九)記載の土地について、同法務局同出張所同年一〇月二八日受付第一五五二八号の抵当権移転の付記登記、第一五五二九号の所有権移転請求権移転の付記登記及び第一五五三〇号の停止条件付賃借権移転の付記登記の各抹消登記手続をせよ。

四、訴訟費用は、これを六分し、その五を被告ケイ・ワイ通商株式会社、被告桑名禮子及び被告朝銀東京信用組合の負担とし、その余は被告有限会社大倉及び被告江北商事株式会社の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

二、請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. (別紙目録(一)記載の建物関係)

(一)  原告は、昭和五四年一〇月一五日別紙目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築し、これを所有している。

(二)  被告有限会社大倉(以下「被告大倉」という。)は、本件建物について主文第一項記載の登記を経由している。

2. (別紙目録(二)記載の土地関係)

(一)  原告は、別紙目録(二)記載の土地(以下「第一土地」という。)を所有している。

(二)  被告ケイ・ワイ通商株式会社(以下「被告ケイ・ワイ通商」という。)、被告桑名禮子(以下「被告桑名」という。)及び被告朝銀東京信用組合(以下「被告組合」という。)は、第一土地についてそれぞれ主文第二項記載の各登記を経由している。

3. (別紙目録(三)ないし(九)記載の土地関係)

(一)  原告は、別紙目録(三)ないし(九)記載の土地(以下「第二土地」という。)を所有している。

(二)  被告江北商事株式会社(以下「被告江北商事」という。)は、第二土地について、被告大倉は、第二土地のうち別紙目録(六)ないし(九)記載の土地について、それぞれ、主文第三項記載の各登記を経由している。

よって、原告は被告らに対し、所有権に基づき、それぞれ、その経由した各登記の抹消登記手続をすることを求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1について(被告大倉)

(一)  請求原因1(一)のうち、本件建物が原告主張のころ新築されたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件建物は原告の長男である訴外〓通〓平(以下「〓平」という。)が建築し、所有していたものである。

(二)  同1(二)の事実は認める。

2. 請求原因2について(被告ケイ・ワイ通商、同桑名、同組合)

請求原因2(一)のうち、原告が第一土地を所有していたこと及び同2(二)の事実は認める。

3. 請求原因3について(被告江北商事、同大倉)

請求原因3(一)のうち、原告が第二土地を所有していたこと及び同3(二)の事実は認める。

三、抗弁

1. 請求原因2に対して(所有権喪失の抗弁)

(一)(被告ケイ・ワイ通商)

原告は、昭和五五年五月一六日、被告ケイ・ワイ通商との間で、同被告が第一土地を含む原告所有の数筆の土地を担保として自由に使用し、そのために、売買を原因とする同被告への所有権移転登記を行う旨の契約を締結した。

(二)(被告桑名、同組合)

(1) (被告ケイ・ワイ通商に対する売買)

原告は被告ケイ・ワイ通商に対し、遅くとも昭和五五年九月五日までに、第一土地並びに流山市平方原新田字原口一九八番一(ただし、同年八月二一日以降、同番一、一六、一七の三筆に分筆された。)、同所二〇一番一及び同所二〇二番の合計四筆の土地(同年八月二一日以降は六筆。以下、これらを一括して「第一土地等」という。)を代金一億五〇〇〇万円で売り渡した。

(2) (被告ケイ・ワイ通商に対する譲渡担保)

仮に右(1)の事実が認められないとしても、

ア 被告ケイ・ワイ通商は原告に対し、同年七月二九日までに合計金一二五〇万円を、同日金一億〇二一一万九九八〇円を貸し渡した。

イ 原告は、同日、被告ケイ・ワイ通商との間で、右借入金債務の支払を担保するため、第一土地等につき譲渡担保契約を締結した。

ウ その後被告ケイ・ワイ通商は原告に対し、同年七月三〇日金一七五〇万円、同年八月一〇日金二〇〇万円、同月一一日金一八〇万円、同月一五日金二〇〇万円をそれぞれ貸し渡し、原告と同被告は、右各借入金債務を右譲渡担保契約の被担保債権とすること、以上の債務合計金一億四九四一万九九八〇円の弁済期を同年八月二八日とすることを合意した。

エ 同年八月二八日が経過した。

(3)(民法九四条二項による被告桑名の所有権取得)

仮に、右(1)、(2)の事実が認められないとしても、

ア 原告は被告ケイ・ワイ通商に対し、第一土地等について、真実その所有権を同被告に移転する意思はないのに、同被告が原告のために他から融資を受けるための便宜上、同被告が原告から所有権移転登記を経由することを許諾した。

イ 被告桑名は被告ケイ・ワイ通商から、同年八月二九日、第一土地等を金二億円で買い受けた。

ウ 右売買当時、被告桑名は、第一土地等の所有権が被告ケイ・ワイ通商に属する旨信じていた。

(4)(被告ケイ・ワイ通商を使者とする被告桑名に対する売買)

仮に、右(1)ないし(3)の事実が認められないとしても、

ア 被告ケイ・ワイ通商は、被告桑名との間で、同年八月二九日、原告の使者として、第一土地等を代金二億円で同被告に売り渡す旨の契約を締結した。

イ 原告は被告ケイ・ワイ通商に対し、右契約に先だってその使者となる権限を与えた。

(5) (被告ケイ・ワイ通商を代理人とする被告桑名に対する売買)

仮に、右(1)ないし(4)の事実が認められないとしても、

ア 被告ケイ・ワイ通商は、被告桑名との間で、同年八月二九日、原告のためにすることを示し、第一土地等を代金二億円で同被告に売り渡す旨の契約を締結した。

イ 原告は被告ケイ・ワイ通商に対し、右契約に先だって、その代理権を与えた。

2. 請求原因3に対して(被告江北商事、同大倉)

(一)  原告は、昭和五五年七月二一日、被告江北商事との間で、訴外株式会社秋葉興業の被告江北商事に対する貸金九〇〇〇万円の債務を担保するため、第二土地について、抵当権設定契約並びに代物弁済の予約及び賃借権設定の予約をなし、これに基づき原告主張の各登記を了した。

(二)  被告大倉は、同年一〇月二五日、被告江北商事から、第二土地のうち別紙目録(六)ないし(九)記載の土地について、右抵当権及び各予約上の権利を譲り受け、これに基づき原告主張の各付記登記を経由した。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1のうち、(二)(2)エは認め、(二)(3)イ、(二)(4)ア、(二)(5)アは不知。その余の事実はすべて否認する。

2. 抗弁2のうち、(一)は否認し、(二)は不知。

第三、証拠<略>

理由

第一、本件建物関係(被告大倉関係)

一、請求原因1(一)の事実について判断するに、本件建物が昭和五四年一〇月一五日に建築されたことは関係当事者間に争いがなく、証人〓通〓平の証言及び原告本人尋問の結果によると、本件建物は原告が建築し所有しているものであることを認めることができる。

もっとも、成立に争いのない甲第五号証によれば、本件建物について昭和五五年八月一日付で〓平名義の保存登記が経由されていることが認められるが、証人〓通〓平の証言によれば、右登記は、原告の長男である〓平が、他から資金を得る必要上、真実は原告の所有に属するものであることを知りながら原告に無断で経由したものであることが認められるので、右登記が経由されていることをもって右認定事実を左右することはできず、他に右認定に反する証拠はない。

二、請求原因1(二)の事実は当事者間に争いがない。

三、よって、本件建物に関する原告の被告大倉に対する請求は理由がある。

第二、第一土地関係(被告ケイ・ワイ通商、同桑名、同組合関係)

一、請求原因2(一)のうち、原告が第一土地を所有していたこと及び同2(二)の事実は関係当事者間に争いがない。

二、抗弁1(一)(被告ケイ・ワイ通商)について

被告ケイ・ワイ通商が抗弁1(一)として主張する契約の趣旨は、要するに、原告と同被告の真意は、原告が同被告に対し第一土地を含む原告所有地を担保として提供する(すなわち、原告は同被告の債権者のために物上保証人となる)ことにとどまるにもかかわらず、外形的には売買を原因とする同被告への所有権移転登記を行うというものであるから、通謀虚偽表示として無効となる合意を主張しているに過ぎず、同被告の抗弁としては、主張自体失当といわざるを得ない。しかし、弁論の全趣旨を参酌すると、右主張は原告と同被告との間に無名契約としての所有権移転契約が成立し、その結果として同被告は第一土地を含む原告所有地を担保として自由に使用し得る地位を得たという趣旨をいうものと解する余地もないではないので、以下、同被告が主張する昭和五五年五月一六日にこのような所有権移転の合意が成立したか否かについて判断するに、原告と同被告との間には、同日付の文書として、合意契約書と題する甲第二一号証及び担保提供承諾書と題する乙第二号証が存在することが認められる。

1. 甲第二一号証について

(一)  甲第二一号証に記載されている主たる契約条項は、次のとおりである。

(1) 原告は、その所有に係る第一土地(当時の地目は畑である。)並びに同所一九八番一、二〇〇番三四同番三五、二〇一番一、同番二及び二〇二番の各畑の合計七筆の土地を、被告ケイ・ワイ通商が金融機関その他から金員を借り受けるについての担保として、同被告に提供する。

(2) (原告は、右七筆の土地について抵当権を設定しているところ、)原告は、同被告が右(1)により他から借り受ける金員のうち、既存の抵当債務の弁済に要する金員及び自ら使用する金一億円を、同被告から更に借り受ける。同被告は、右(一)により他から借り受ける金員のうち金五〇〇〇万円を自ら使用する。

(3) 原告は、同被告から右(2)により金員を借り受けたときは、右七筆の土地について農地法に基づく地目変更の申請手続を行なう。

(4) 同被告の原告に対する貸付は、昭和五五年五月二〇日に行い、利息を年一二パーセント、弁済期を同年八月二〇日(ただし、双方協議の上一年間猶予され得る。)とする。

(5) 地目変更の許可を受けた場合には、原告は、右七筆の土地の所有権を同被告又は同被告の指定する第三者に担保移転し、その登記手続を行なう。

右条項の意味するところは甚だ理解しにくいけれども、(5)の「所有権を……担保移転」という文言からすると、同被告の原告に対する貸金債権を担保するため右七筆の土地を譲渡担保に付したものと一応解することができる。しかしながら、後に認定するとおり、原告及び〓平の経済状況は著しくひっ迫しており、わずか三か月後(猶予されたとしても、一年三か月後)の弁済期までにこれを弁済し得る見込みはなかったものであるから、その実質は、確定的に所有権を移転する契約と同視してよい(同被告の相談役と称する証人川畑一通も、契約としては譲渡担保に近いが、現実には確定的な所有権移転行為である旨証言している。)。しかも、同被告の原告に対する貸金なるものの実態は、同被告の出捐によるものではなく、右七筆の土地を担保にして(すなわち、原告を物上保証人として)他から借り受けた金員の一部をそのまま原告に交付するというに過ぎないばかりか、後記認定のとおり、当時右七筆の土地に設定されていた抵当権の被担保債権総額は金七〇〇〇万円程度であり、仮にこの契約どおりに原告が右債務の弁済に要する金員及び金一億円を同被告から借り受けることができたとしても、その総額は金一億七〇〇〇万円にとどまるところ、証人〓通〓平の証言によれば、最終的に右七筆の土地のうち、一九八番一、二〇一番一、二〇二番の三筆の土地は、約金二億四〇〇〇万円で競落されたことが認められるので、右七筆の土地の時価はこれを更に上回ることとなる。

以上要するに、この契約によれば、同被告は、実質的には右七筆の土地を担保にした融資先を探してくれるだけで、金五〇〇〇万円を取得し、かつ、(担保権の負担を伴うとは言え)時価二億四〇〇〇万円を更に上回るとみられる右七筆の土地の処分権を取得しうるのに対し、原告は一億七〇〇〇万円を得るのみで右七筆の土地を失うことに帰するわけで、この契約の不当性、暴利性は明白といわなければならない。

(二)  しかして、右甲第二一号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは原告が自陳しているところ、証人〓通〓平及び同川畑一通の各証言によると、右印影は、原告の長男である〓平が、昭和五五年五月一六日、東京都新宿区にある被告ケイ・ワイ通商の事務所において、原告の使者として、原告の実印を用いて顕出したものであることが認められる。

(三)  しかしながら、原告が〓平に対し、右のような契約を締結するための使者となる権限を与えていたことを認めるに足りる証拠はない。すなわち、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第一二号証及び第二四号証(飯島定夫の証人調書)、証人〓通〓平及び同川畑一通(一部)の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、〓平は、昭和五五年当時、その経営に係る有限会社〓通土木の運営資金等のため合計七〇〇〇万円程度の資金債務を負担しており、その支払を担保するため第一土地を含む原告所有の不動産には抵当権が設定されていたが、〓平は、右貸金の返済に窮し、その処理について訴外玉井平治(以下「玉井」という。)に相談していたこと、一方、原告は、耳が遠く、文字もほとんど読めない、当時七八歳の老人であり、一般的な法的判断能力及び対人折衝能力に劣っていたばかりか、具体的な〓平の債権者等との法律関係を理解する能力も著しく欠けていたこと、このため、〓平は、原告から、その使途等を十分に説明することなく、原告所有の不動産の権利証や原告の実印、委任状、印鑑証明書等を借り出して自ら使用し、又は玉井に交付する等していたもので、このような事情から、原告及び〓平の周辺には、〓平の債務及び原告所有の不動産の処理をめぐって、複数の金融業者、不動産業者等が出入りしていたこと、被告ケイ・ワイ通商の代表取締役である訴外河野良子(以下「河野」という。)及びその相談役的立場にあった訴外川畑一通(以下「川畑」という。)は、同年四月ころ、玉井の紹介により、原告の自宅において原告及び〓平に会い、「低金利の融資先を斡旋し、〓平の債務を整理してやる。」旨述べた上、その後〓平に対し、原告の実印及び印鑑証明書を持参するように要請したこと、そこで、〓平は原告に対し、「金を貸してくれる人がいるから。」とのみ述べ、その使途、相手方等についての事情を説明することなしに原告の実印及び印鑑証明書を借り出したこと、〓平は、このようにして入手した原告の実印を甲第二一号証に押捺したものであり、その際、併せて、川畑らの要請により、数通の白紙に甲第二一号証と同様に原告の実印を押捺した上、原告の印鑑証明書とともに川畑らに交付したこと、以上の事実が認められる。右認定の事実によれば、原告が、右七筆の土地の所有権を移転する等、前記のごとき内容を有する甲第二一号証の契約を締結する意思で〓平に実印を交付したものとは到底認められず、むしろ、河野及び川畑は、原告の無知及び〓平の無思慮、窮迫に乗じて、右七筆の土地が同被告に帰属した旨の外形を作出すべく、〓平が原告に十分な説明をすることなく実印を借り出してくるであろうことを承知の上で、〓平に対し原告の実印を持参するように指示し、全認定のとおりこれを甲第二一号証に押捺せしめたものと認められる。

(四)  したがって、甲第二一号証は、原告の意思に基づかない偽造のものというべく、同被告の主張を支える証拠として採用することはできない。

2. 乙第二号証について

(一)  乙第二号証は、「私は、私所有の別紙物件目録記載の土地(右七筆の土地が記載されている。)につき、貴殿が金融機関及び他からの資金借入の担保とするため、同物件を提供することを承諾します。」と記載された、原告名義の被告ケイ・ワイ通商宛の「担保提供承諾書」と題する書面であるが、その文言からは、同被告が主張するような、右七筆の土地について同被告に所有権移転登記をする趣旨を窺うことはできない。したがって、乙第二号証はそれのみでは、同被告の主張を支える証拠とはなり得ないが、証人川畑の供述中には、右乙第二号証は、右七筆の土地の所有権を同被告に移転することを前提として作成されたとする部分がないではないので、検討する。

(二)  乙第二号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは原告が自陳している。しかしながら、右印影が原告の意思に基づいて顕出されたことを認めるに足りる証拠はない。すなわち、証人川畑は、「乙第二号証は、昭和五五年五月一六日より前に、河野、川畑、玉井が原告方を訪れた際、玉井が原告の氏名を書き入れ、原告がその名下に実印を押捺して作成したが、その際日付は空白にしていた。そして、同日になって、〓平が同被告の事務所を訪れ前記甲第二一号証を作成したときに、日付を入れた。」と供述するが、現に立ち会っていたとする原告が署名せず、またあえて日付を空白にして後日書き入れたことを首肯させるに足る合理的理由を見出すことはできず、右供述部分はたやすく信用できない。(かえって、前記1で認定した甲第二一号証の内容、作成経緯に照らすと、川畑は、乙第二号証が原告の面前で作成されたことにするため、ことさら日付だけを後日書き入れた旨虚偽の供述をしているのではないかという疑いを払拭し得ない。)他に、これを認めるに足りる証拠はない。

(三)  したがって、乙第二号証も同被告の主張を支える証拠として採用することはできない。

3. その他の証拠について

このほかにも、被告ケイ・ワイ通商は、甲第二一号証と類似の内容を有する、原告と同被告との間の昭和五五年五月二日付の覚書(乙第三号証)、原告が第一土地、同所一九八番一及び同所二〇一番の三筆の土地を担保として提供することを骨子とする、原告、同被告及び訴外東北興産株式会社の間の同年七月二二日付の担保提供等契約公正証書(乙第一号証)を所持していることが認められ、甲第二〇号証の一、二によれば、右公正証書作成に際し、原告の実印が押捺された原告名義の委任状(甲第二〇号証の一)及び印鑑証明書(同号証の二)が提出されていることが認められるが、乙第三号証の原告作成部分が真正に成立したことを認めるに足りる証拠はない。また、乙第一号証の公正証書作成に使用された委任状(甲第二〇号証の一)に原告の実印が押捺された経緯及び同じく原告の印鑑証明書(同号証の二)が提出された経緯も明らかでなく、前記1で認定した諸事情にかんがみると、右委任状及び印鑑証明書は、河野、川畑らが原告の意思に基づかずに入手した疑いが濃い。結局、以上の各証書は、いずれも同被告の主張を支える証拠とはなし得ない。

更に、証人川畑の証言中には、同被告の主張に副う部分がないではないが、その裏付けとなるべき前記各書証がいずれも採用しえないことは既にみたとおりであるから、右供述部分はたやすく信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4. よって、抗弁1(一)は理由がない。

三、抗弁1(二)(1)(被告桑名、同組合)について

抗弁1(二)(1)は、(その成立時期がきわめてあいまいであるものの)原告と被告ケイ・ワイ通商との間で、第一土地等(第一土地、同所一九八番一、同所二〇一番一及び同所二〇二番の四筆の土地をいう。昭和五五年八月二一日以降は、一九八番一が、同番一、一六、一七に分筆されたので六筆となる。)につき代金一億五〇〇〇万円とする売買契約が成立したというものであるが、本件書証中には原告と被告ケイ・ワイ通商間の売買契約書が存在しない(証人川畑の供述中、売買契約書も作成したが紛失したとする部分はたやすく信用できない。)ばかりか、かえって、甲第二一号証、乙第二号証等のような「担保提供」に関する書面があるのみで、しかもこれらの書面も原告の意思に基づいて作成されたものとは認め難いことは既にみたとおりである。更に、原告に対し代金一億五〇〇〇万円が支払われたことを認めるに足りる証拠もない(もっとも、証人川畑は、原告のために被告ケイ・ワイ通商が金一億五〇〇〇万円近くを出捐した旨供述するが、右供述部分が信用し得ないことは後記四のとおりである。)。

したがって、被告桑名、同組合主張の売買の事実は認め難いところであるが、前記甲第一ないし第四号証によると、同年九月六日、第一土地等につき同年五月二〇日売買を原因とする被告ケイ・ワイ通商への所有権移転登記がなされていることが認められるので、右登記申請行為が原告の意思に基づいてなされたものであるならば、代金額はともかく、原告が第一土地等を同被告に売り渡す旨の意思表示をしたものと解すべき余地が残る。

そこで、以下、この点について検討する。

1. <証拠>を総合すると、次のような事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  昭和五五年七月二九日、流山市流山九三六番地の飯島司法書士(以下「飯島」という。)の事務所において、原告と被告大倉との間で、同被告が原告に金七〇〇〇万円を、弁済期同年八月三一日の約で貸し渡し、右貸金債務を担保するため第一土地等に抵当権を設定する旨の契約が締結され、翌七月三〇日その旨の抵当権設定登記がなされた。右契約は、被告ケイ・ワイ通商の斡旋によるものであり、事前に玉井からの連絡を受けた〓平の依頼により、原告自身が立ち会って締結された。右貸金七〇〇〇万円は、前認定の既存の抵当債務の弁済に充てられ(その全額が弁済のために使用されたのかは必ずしも明らかではないが、原告には金員は交付されなかった。)、被告大倉は第一順位の抵当権を取得した。原告は、帰宅後〓平に対し、「従前の債務は弁済されたようだ。」と述べた。

(二)  同年八月二〇日ころ、河野、川畑、玉井のうちのいずれかが飯島に対し、原告の委任状(甲第二六号証の二)及び印鑑証明書(同号証の三)を、届けた。また、第一土地等の登記済証も、飯島に届けられていた(誰が届けたのかは証拠上不明である。)。

(三)  一方、かねてより、訴外桜井某(以下「桜井」という。)の紹介により、第一土地等を買い受けるべく河野、川畑らと折衝していた被告桑名及び同被告と共同して事業を営んでいた訴外西川昇(以下「西川」という。)は、同月二二日ころ、河野、川畑から「第一土地等の登記済証、原告の印鑑証明書、委任状を飯島に預けているので、農地の地目変更登記が済み次第、被告ケイ・ワイ通商への所有権移転登記がなされる運びであり、被告桑名への所有権移転登記に支障はない。」旨の説明を受けた。

当時、右四名の間では、被告桑名が被告ケイ・ワイ通商から第一土地等を代金二億円で買い受ける、被告大倉の前記抵当権設定登記は被告ケイ・ワイ通商の責任において抹消登記手続をする旨の大筋の合意ができており、被告桑名、西川は、被告組合から右売買代金を含めて二億五〇〇〇万円の融資を受ける手筈を整えていた。

(四)  同月二九日、玉井、河野、川畑、被告桑名、西川及び被告組合の職員が飯島の事務所に参集し、飯島に対し、第一土地等につき、原告から被告ケイ・ワイ通商、被告ケイ・ワイ通商から被告桑名への各所有権移転登記及び被告桑名を債務者とする被告組合のための極度額二億五〇〇〇万円の根抵当設権定登記の各申請手続を行うよう依頼した。飯島は、前記(二)のとおり既に原告の委任状、印鑑証明書の交付を受けていたので、その場で原告から被告ケイ・ワイ通商への所有権移転登記手続申請書(甲第二六号証の一)を作成した上、手数料等として金二〇〇万円を受領した。

また、当日までに被告ケイ・ワイ通商と被告大倉との協議が整わず、被告大倉の極度額七〇〇〇万円の根抵当権設定登記は抹消されなかったが、被告桑名は、被告ケイ・ワイ通商との間で第一土地等を代金二億円で買い受ける旨の契約を締結し、被告組合から前記金二億五〇〇〇万円の融資を受け、このうち二億円から金七〇〇〇万円及び登記手数料を控除した残金を河野に交付した。

(五)  同月三一日、被告大倉の関係者が原告に対し、右(一)の貸金の弁済期が到来したとして、弁済しなければ第一土地等を取り上げる趣旨のことを通告してきた。原告と同居していた〓平及び妻幸子は、流山市こうのす台に居住していた原告の三女である〓通さだ(以下「さだ」という。)を呼び出し、善後策を協議した。

(六)  同年九月三日、飯島は、前記登記申請手続を保留したまま、かねてより予定していた老人会の旅行に出かけたが、この間、被告桑名、西川は河野、川畑に対し、登記手続を急ぐよう指示していたところ、同月三日、河野、川畑は原告方に赴いて、右さだに対し、「被告大倉の関係者が原告の印鑑証明書等を所持しており、これを悪用して土地を取ってしまうおそれがある。登記済証を所持している飯島が不在なので、急いで、保証書によって所要の手続をしておく必要がある。」等と述べた。そこで、さだは、知人である伊藤英治司法書士(以下「伊藤」という。)にその手続を依頼することとし、同月五日にその手続をすることとなった。

(七)  同月五日、原告、さだ、玉井、河野、川畑は、伊藤の事務所に参集し、伊藤に対し、第一土地等につき不動産登記法四四条の保証書による、原告から被告ケイ・ワイ通商への所有権移転登記手続の申請を依頼をした。伊藤はこれを了解し、伊藤及びその妻が保証人となることとし、原告に指示して登記申請委任状に署名押印させ、印鑑証明書を提出させた上、右登記申請書を千葉地方法務局流山出張所に提出した。また、伊藤は同法四四条の二の登記官からの登記義務者(原告)に対する郵便による通知書(葉書)が届いたら、これを持参するように指示した。当時、原告は住民票上の住所を原告の四女である坂戸直子(以下「直子」という。)方としていたので、関係者は右通知が直子方にあてて発送されることを知っていた。

なお、同日午後、河野は西川に対し、伊藤の保証書による登記手続を行う運びとなったことを連絡したので、西川は伊藤の事務所に赴いてその旨確認し、更に同法務局同出張所に赴いて原告あての同法四四条の二の郵便による通知書(葉書)が発送されていることを確認した。

また、同日夜、玉井はさだに対し、右通知書を郵便局で直接原告に受領させ、速やかに手続を進める必要があるとして、明朝、流山郵便局に、玉井とともに、原告を同道して行くよう指示した。

(八)  同月六日午前一〇時ころ、玉井とさだは原告を同道して流山郵便局に赴いた。桜井、西川及び西川の知人である訴外武田(以下「武田」という。)も同郵便局に来ていたが、さだは同人らを玉井の知人と考えていた。さだ、玉井、西川らは同郵便局長らに対し、登記官からの原告あて通知書(葉書)をその場で原告に交付するよう強く求め、同局長との間で激しいやりとりがあったが、同局長からこれを拒まれたため、止むを得ず前記直子方で、右通知が配達されるのを待つこととし、さだは、最早同道しておく必要のなくなった原告を自宅に帰した。その際、さだは原告の実印を預り、玉井とともに伊藤の事務所に立ち寄って、経過を説明した上、直子方に赴いた。この間、被告大倉の代表者である訴外西脇三郎(以下「西脇」という。)が、伊藤の事務所に現われ、伊藤に対し、登記官からの原告あて通知の所在をめぐって激しく抗議し、また流山郵便局付近で被告大倉の関係者と玉井、西川(あるいはその関係者)が激しく言い争うということがあった。

(九)  玉井とさだは直子方で待っていたが、ほどなくして前記通知書が配達されたので、事情を知らない直子に対し、裏面の登記義務者の意思確認のための回答欄部分を指示し、「これに原告の名を書かないと、土地建物を被告大倉に取られてしまう。」旨述べて、直子に原告の氏名を記入させ、その名下にさだが原告の実印を押捺した。玉井とさだは、こうして作成された原告名義の回答書を持参して伊藤の事務所に戻り、これを伊藤に交付した。伊藤は右回答書を同法務局流山出張所に提出し、同日被告ケイ・ワイ通商への所有権移転登記が経由された。

(一〇)  同月八日、伊藤の申請により、第一土地等につき被告ケイ・ワイ通商から被告桑名への所有権移転登記及び被告桑名を債務者とする被告組合のための極度額二億五〇〇〇万円の根抵当権設定登記が経由された。

(一一)  同月一一日、前記西脇の娘婿にあたる訴外日戸則夫(以下「日戸」という。)及び被告大倉の関連会社である訴外株式会社秋葉興業(以下「秋葉興業」という。)の関係者が、多数、原告所有地に来て、ブルドーザー等の堀削機械を用いて土地を整地するなどした。さだは、あらかじめ、被告大倉の関係者によるこのような動きを察知した玉井から、その旨の連絡を受けていたので現場に待機していたが、なす術もなく、これを見守った。

(一二)  同月一二日ころ、西川は日戸に会い、被告大倉の債権を弁済するので、第一土地等に設定された被告大倉の抵当権設定登記の抹消登記手続を行うよう交渉したが、日戸は、被告大倉において第一土地等を買い受ける予定であったとしてこれに応じなかった。

以上の認定事実によると、二度にわたって司法書士に対する登記申請の依頼がなされていることが認められるので、右各依頼が、原告の意思に基づくものといえるか否かについて検討を進める。

2. 飯島に対する所有権移転登記手続申請の依頼について河野・川畑・玉井のいずれかが昭和五五年八月二〇日ころ、原告作成の白紙委任状(甲第二六号証の二)及び印鑑証明書(同号証の三)を飯島に交付したことは前認定のとおりであるが、原告が、第一土地等を被告ケイ・ワイ通商に売り渡す意思で右各書類を河野らに交付したことを認めるに足りる証拠はない。すなわち、

(一)  本件全証拠によっても、河野らが右各書類を入手した経緯は明らかでない。この点について、証人川畑は、飯島に対する右登記手続申請の依頼がされた同月二九日には、原告自身も飯島の事務所に赴いており、原告が飯島の面前で右委任状に署名押印し、印鑑証明書を交付した旨供述しているところ、当日原告が立ち会っていなかったことは、被告桑名及び西川ですら明言しているところであり、(丙第八号証の一ないし、三、第九号証の一、二)、右供述部分は到底措信し得ないが、むしろ、証人川畑のこうした無理な供述自体、川畑らが、右委任状及び印鑑証明書が被告ケイ・ワイ通商への所有権移転登記のために交付されたものではない事実を知っていたことを強く推認させるものといわざるを得ない。

(二)  前記甲第二四号証(飯島の証人調書)、第二八号証によると、飯島は、原告の古くからの知人であり、原告が文字もほとんど読めず、法的判断能力等に劣っていること及び原告所有地をめぐって不動産業者等が種々介入していることを承知していたため、右登記手続申請の依頼を受けた際、原告の意思を直接確認する必要があるものと考え、たまたま飯島自身が同年九月三日から旅行に出かける予定であったことから、同月二日までに原告を飯島の事務所に同道して来るよう指示したこと、ところが河野・川畑・玉井らは原告を飯島の事務所に連れて行かなかったため、飯島は右登記申請手続を留保したまま、同月三日予定通り旅行に出かけたことが認められる。もっとも、前記丙第八号証の一ないし三(西川の証人調書)によると、西川は、飯島は第一土地等の地目変更登記を終えればすぐに所有権移転登記がなされる旨説明したのみで、原告の同道を求めたりはしていない旨供述していることが認められるけれども、成立に争いのない乙第一〇、第一一号証によると、第一土地等のうち、一九八番一、同番一六、同番一七及び第一土地は同年八月二二日に、二〇一番一及び二〇二番は同月二九日に、既にそれぞれ雑種地又は宅地に地目変更の登記がなされていたことが認められるので、右供述部分はたやすく信用できず、証人川畑の証言及び丙第九号証の一、二(被告桑名の証人調書)中、右認定に反する部分もにわかに措信し難い。他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、河野らが原告を飯島の事務所に同道しなかったのは、飯島に原告の真意を確認されるのを恐れたためと推認せざるを得ない。

(三)  したがって、甲第二六号証の二、三をもって、飯島に対する右所有権移転登記手続申請の依頼が、原告の意思に基づくことの証拠とすることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3. 伊藤に対する所有権移転登記手続申請の依頼について

原告が、同年九月五日、伊藤の事務所に赴き、伊藤の面前で、第一土地等につき売買を原因とする被告ケイ・ワイ通商に対する所有権移転登記手続を申請するための委任状に署名押印したことは、右に認定したとおりである。しかしながら、原告が、耳が遠く、文字もほとんど読めない老人であり、法的判断能力等に劣っていることは既にみたとおりであるから、右委任状に署名押印した事実のみをもって、原告が被告ケイ・ワイ通商に対し第一土地等を売り渡す旨の意思表示をしたものと認めることはできず、更に、原告が右登記手続について十分な説明を受け、その意味を理解していたことの立証を要するものというべきところ、以下の諸点にかんがみると、これを認めるのは困難である。すなわち、

(一)  証人川畑は、飯島に登記手続を依頼する前から、原告は被告ケイ・ワイ通商に所有権移転登記をすることを了解していた、ところが飯島が登記手続を怠ったまま旅行に出かけ、その後被告大倉の関係者に不穏な動きがみられたので、保証書による登記手続を行うことを余儀なくされた、そこで同年九月三日原告方に赴いて原告にその旨説明し、了解を得た等、種々供述するが、原告が第一土地等の所有権を移転することを承諾し、飯島にその登記手続を依頼した事実が認められないことは既に説示したとおりであり、むしろ、原告に無断で所有権移転登記手続を進めようとしていたものと推認される川畑がこのような説明をする筈はなく、右供述部分は到底信用し得ない。

(二)  証人伊藤の供述中には、さだ、河野らから登記手続の依頼を受けた際原告にその意思を確認したとする部分がないではない。しかし、同人の証言によると、同人は、原告が文字もほとんど読めず法的判断能力にも劣ること及び第一土地等の登記済証は司法書士である飯島の手元にある(したがって、不動産登記法四四条にいう「登記済証カ滅失シタルトキ」の要件を欠き、本来なら、保証書の添付による登記申請が許される場合ではない)ことを承知していたことが認められるので、このような認識を有していた伊藤としては、真に、原告に所有権移転の意思があることを確認する必要を感じたのであれば、進んで登記原因とされた売買の代金の額、支払時期及び受領の有無についても原告に確認するのが自然というべきところ、この点について何ら確かめていないことは、伊藤の自認するところである。してみると、伊藤は、原告の意思の確認の必要を感じていなかったものと推認され、あえて右確認をしたとする前記供述部分はにわかに措信し難い。

(三)  もっとも、さだは、原告が署名押印した登記申請委任状及び登記官から原告あての意思確認のための通知書を直接見ていたのであるから、伊藤に依頼した登記手続が売買を原因とする被告ケイ・ワイ通商への所有権移転登記手続であることを認識していたものと認められる(この点について、証人〓通さだは、同人は、第一土地等を担保に、被告大倉からの貸金の返済資金を新川農業協同組合から借り入れるべく、伊藤に対し、その抵当権設定登記手続を行うための保証書の作成を依頼したにもかかわらず、伊藤が勝手に所有権移転登記手続の申請をした旨供述するが、たやすく信用し得ない。)が、本件全証拠によっても、さだが原告に対し、所有権移転の意思を確認し、伊藤に依頼した手続の内容を説明した形跡を窺うことはできない。

(四)  かえって、証人坂戸直子、同伊藤英治及び同〓通〓平の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、被告ケイ・ワイ通商への所有権移転登記が経由されたことが判明した後、原告及び〓平がさだを追及したところ、さだは、すぐ返してくれるから心配はない旨答えたこと、原告は伊藤に対し、担保権の設定を頼んだのに所有権を移転されたとして抗議したこと、〓平及び直子は、右移転登記は、さだが、原告に無断で勝手にしたものとの認識を有していること、原告は、保証書の法的意味、自身が流山郵便局に同道された理由、被告大倉の関係者との間で紛糾するに至った事情等を全く理解していないことが認められ、以上の諸事実に、既に認定した、河野、川畑は、低金利の融資先を斡旋する旨持ちかけて原告及び〓平に近づいた上、原告の意思に基づかずに、第一土地等が被告ケイ・ワイ通商に帰属したかのような外形を作出し、最終的にこれを被告桑名に売却して利益をあげるべく種々画策していたこと、さだは、登記官からの原告あての通知書を郵便局で受領できないと知るや直ちに原告を帰すなど、いわば原告の関与を必要最小限にとどめめつつ、伊藤に対する登記手続の依頼の前後を通じて積極的に行動していること等本件に顕われた諸事情を併せ考えると、さだは、河野、川畑、玉井らから虚偽の説明を含む何らかの働きかけを受けた結果、第一土地等についての被告大倉の介入を防ぐためには、河野らに協力してとりあえず第一土地等について被告ケイ・ワイ通商に所有権移転登記をしておく必要があるものと考え、原告に対しては、被告大倉に対する債務の弁済資金を得るため、第一土地等に担保を設定する必要がある程度の適当な説明をして、伊藤の事務所に行くことを納得させていたもので、伊藤としても、原告のほかにさだが同行していたことから、種々不審な点の多い依頼であったにもかかわらず、改めて原告の意思を確認する必要も感じないまま、保証書による本件登記手続の申請をしたものと推認される。他に叙上の認定を覆えして、被告桑名、同組合の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(五)  したがって、原告が、第一土地等につき売買を原因とする被告ケイ・ワイ通商に対する所有権移転登記手続を申請するための委任状に署名押印したことをもって、被告桑名、同組合主張の売買の事実を認めることはできない。

4. 以上のとおりであるから、抗弁1(二)(1)は理由がない。

四、抗弁1(二)(2)(被告桑名、同組合)について

抗弁1(二)(2)(被告ケイ・ワイ通商に対する譲渡担保)のア、ウについて判断するに、承認川畑は、被告ケイ・ワイ通商は、原告のために一億五〇〇〇万円以上の金員を出捐した旨供述し、これを裏付ける証拠として、右金員の内訳明細を記載した同人作成の書面(乙第一一号証)が提出されていることが認められる。しかしながら、右乙第一一号証は、原告が被告大倉から借り受けた前記金七〇〇〇万円を被告ケイ・ワイ通商の原告に対する貸金とし、しかも、右借入金をもって既存の抵当権者に弁済した金員を、重ねて計上しているばかりか、川畑の供述によっても、それが原告のために出捐されたものであることを首肯し難い第三者に対する支払分等をも記載した、きわめて不当な内容を有する、信を措き難い書面であり、むしろ、こうした費目を根拠に、被告ケイ・ワイ通商が原告に対する貸金債権を有する旨強弁する川畑の供述態度自体、同人の証言の全体的信用性を大きく損なうものといわなければならない。他に、被告ケイ・ワイ通商が原告に対し貸金債権を有することを認めるに足りる証拠はない。

よって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁1(二)(2)は理由がない。

五、被告桑名、同組合のその余の抗弁について

1. 抗弁1(二)(3)のアについて判断するに、前記二・三で説示してきたところによれば、原告が被告ケイ・ワイ通商に対し、第一土地等について同被告が所有権移転登記を経由することを許諾した事実が認められないことは明らかである。

よって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁1(二)(3)は理由がない。

2. 抗弁1(二)(4)のア及び同1(二)(5)のアについて判断するに、被告ケイ・ワイ通商が被告桑名に対し、原告の使者として、又は原告の代理人として(原告のためにすることを示して)、第一土地等を売り渡す旨の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、前記丙第二号証によれば、被告ケイ・ワイ通商は、自身が売主として被告桑名に対し、右売買の意思表示をしていることが認められる。

よって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁1(二)(4)、同1(二)(5)は理由がない。

六、よって、第一土地に関する原告の被告ケイ・ワイ通商、同桑名、同組合に対する請求は理由がある。

第三、第二土地関係(被告江北商事、同大倉関係)

一、請求原因3(一)のうち、原告が第二土地を所有していたこと及び同3(二)の事実は関係当事者間に争いがない。

二、抗弁2(一)について

丁第一号証(債権者を被告江北商事、債務者を秋葉興業、連帯保証人兼担保提供者を原告とする抵当権設定金銭消費貸借契約書)の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは関係当事者間に争いがないが、証人〓通〓平の証言によると、右印影は、前記第二の二1で説示した甲第二一証が作成された際、〓平が、原告の使者として、前記第二の二1(三)で認定した経緯により原告から借り出した原告の実印を用いて顕出したものであり、原告が〓平に対し、このような契約を締結する使者となる権限を与えた事実はないことが認められる。したがって、丁第一号証をもって、原告が被告江北商事との間で、同被告、被告大倉主張の抵当権設定契約等を締結したことの証拠とすることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

三、してみれば、第二土地について被告江北商事が経由した各登記は実体関係のない無効のものであり、これに依拠して、第二土地のうち別紙目録(六)ないし(九)記載の土地について被告大倉が経由した各登記も同じく無効のものというべきであるから、第二土地に関する原告の被告江北商事及び被告大倉に対する請求は理由がある。

(なお、別紙目録(六)ないし(九)記載の土地については、原告は、抵当権設定登記、所有権移転請求権仮登記及び停止条件付賃借権仮登記につき各権利移転の付記登記を経由した者に対し、その主登記たる右各登記の抹消登記手続を求めず(最高裁昭和四二年(オ)第七三八号、昭和四四年四月二二日判決参照)、主登記名義人に対しその主登記の、付記登記名義人に対しその付記登記の、各抹消登記手続を求めているものであるが、このような請求も許容されるものと解される。)

第四、結論

以上のとおりであるから、本訴請求はすべて正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

物件目録<略>

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